手塚治虫はどこにいる/夏目房之介

 だいぶ前の本ではありますが。実際にペンで模写しながら描線とコマの分析を進めるところが説得力満点。分析はふむふむと読み進むのだけど、むしろ興味持ったのは50年代、アトム以前の作品に筆者が少年時代を迎えていて、とりわけそこに魅力を感じているということ。いわく、描線の表情が豊かで、コマ間の時間を微妙に操る、周到に練られたバランスが感じられる。60年代以降の作品になじみを感じる自分としては、機会あったら読んでみたい、とりわけ学童社版「ジャングル大帝」と思わされる(入手困難だろうけどね)。さらに、「ブッダ」や「シュマリ」なども読んでみたくなる、奇をてらわないよい評論と思う。